インセカンズ
「出張帰りだから、ライムは勘弁な」

対角に置かれたシングルチェアに腰掛けた安信の言葉を聞きながらグラスを口元に運ぶと、スピリッツが緋衣の鼻をかすめる。

「あ……。このウォッカ、香りが強めですね」

「へぇ。違いが分かるんだ?」

安信は意外とばかりに片眉を吊り上げる。

「学生時代にバーで働いていた事があって、そこで覚えたんです」

「アズがバーねぇ? 優等生のいい子ちゃんだと思ってたけど、夜遊びしてたんだ」

同じ様にウォッカトニックを傾けながら一瞥する安信に、緋衣は首を横に振る。

「夜遊びなんて……。好きなお酒がタダで飲めるかなって安直で始めたバイトでしたけど、いい経験できましたよ。それより、ヤスさんが作るウォッカトニックって、いつもこの割合ですか?」

「わりぃ。ちょっとキツかったか? 俺のはその倍濃いけどな。自分で飲むときは、味もまぁ大切だけど酔えるかが重要だから。作り直すか?」

「大丈夫です。確かに、酔うには足りないですし。眠くなったら、ソファ貸してくださいね」

「いや、寝るならベットにしとけ。お客様だしな。シャワーも使いたかったら、どうぞ。タオルと着替え、用意しておくし」

「ありがとうございます。これ飲んだら、お言葉に甘えますね」

口元にひとつ笑みを作った後、淡々とグラスの中身を空けていく緋衣。
安信は、顎に手をやりながら彼女の様子を観察する。
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