インセカンズ
「アズさ……。完全にないと思ってるだろ」

緋衣は、安信がソファのアーム部分で頬杖を突いてこちらを見ている事に気付き、グラスに唇をつけたまま上目遣いで彼を見る。

「始めからそのつもりで部屋に呼んだの、ヤスさんでしょ」

「俺は、始めからアズ次第だよ」

そう言う割に安信は飄々としていて、これから何かが起きるような予感は全く感じられなかった。

モテ男って、女性を目の前にしたら、一先ずくどくのが礼儀だと思っているものなの?緋衣は、まるで言葉遊びのようなやり取りだと、苦笑を漏らす。

「そうやって相手に委ねて、女の子が本気になったらどうするんですか?」

これまでに安信と噂に上った女性社員皆が、自分からモーションを掛けた訳ではないだろう。これが駆け引きではないのだとすれば、相手を誤解させる言動を自然と取ってしまう安信は、天性のたらしという事になる。

「男女の事って、その時になってみないと分かんないもんだろ。女ばかりが傷つく訳じゃないし」

「ヤスさんでもフラれたりした事あるんですか」

「そんなの当たり前だろ。俺って、どんなヤツだと思われてんの?」

「少なくとも、不自由してないですよね」

不思議なものを見るかの様にまじまじと緋衣の顔を覗き込む安信に即答すれば、

「俺は、案外不慣れだよ」

彼は、けろりとした顔で言ってのける。
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