インセカンズ
「それ硬質だから、ちょっと重いかもよ」

緋衣がグラスに口をつけると、安信が一言付け加える。

「拘りとかあるんですか?」

「体ん中入れるもんはそうかもね。アズ、煙草は?」

「就職と同時に禁煙してそれっきりです」

「意志が強いんだな。俺は、4回失敗して諦めた」

「さっきと言ってること違いますよ」

緋衣は、安信の手元に置いてあるマルボロのブラックメンソールに視線を落とす。

「ああ。体に入れるものってやつ? そうだよなぁ。分かっているけど、酒と煙草だけはほんと中毒だな。人って、気持ちいいもんほどやめられないだろ」

「外見からはストイックそうに見えるのに、だめな大人なんですね。どちらか一つやめなくちゃならなくなったら?」

「よくそれ聞かれるんだけど、それこそ、そん時なってみないとな」

安信は緋衣からグラスを奪うと残りの中身を飲み干す。

ごくごくと嚥下する度に上下するのどぼとけは、女性にはないものだ。緋衣はぼんやりとその様子を見ていた事に気付き、空になったグラスにさり気なく視線を移した。
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