インセカンズ
「そのお水、おいしいですね。ダイエットにもよさそう」

安信が言った通り、普段は口当たりの良い軟水を飲んでいる緋衣には少し重く感じられたが、喉を通るの時のすっきりと纏まった感じが気に入った。

「アズにダイエットなんて必要ねーよ。胸も尻も今でぎりぎりだから」

安信は、「はい、これ」と言葉を続けると、キャビネットから取り出した2脚のワイングラスを緋衣に手渡し、自分は氷水の入ったワインクーラーを持ってリビングに向かう。

「ヤスさんの好みは聞いてないですよ」

「アズがそんなだと、なかなか色気の方に進まないんだけど?」

「今日のヤスさん、変ですよ。一体何を聞き出したいんですか? それとも、やりたいだけ?」

今日の安信はどこか変だ。そうは思っても、これまでが一同僚として当たり障りのない接し方しかしてこなかった為、本当の彼がどういう人間であるのかを緋衣が知らずにいただけなのかもしれない。

外見に恵まれていかにもモテそうな雰囲気の安信の事だから、女性を口説くときはもっとスマートにさり気なく誘っているのだろうとどこかで思っていたから、違和感があるのかもしれない。

「俺、そういう身も蓋もないような言い方する子、好きだよ。ギャップ萌えってやつ? その後で思いっきり恥ずかしがる事してやりたくなる」

楽しそうに笑う安信はいわゆるSなのだろうと、緋衣は思う。

「それで恥ずかしがらなかったら、どうするんですか?」

「そのパターンは経験ないから、見てみたい気もするけど。で、アズは?」

「さぁ……。自分ではいたってノーマルだと思うので、ヤスさんを楽しませることは難しいと思いますよ。そもそも、彼氏がいるのにこんな会話していること自体が不自然だと思うんですが……」

どうしてさっきからこんな話を続けているのだろう。緋衣は不思議で堪らなかった。安信の部屋に来てから、ずっとこの調子だ。
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