インセカンズ
「そんなに目キラキラさせんなよ。口移しで飲ませるぞ?」

「……それ、まだ続けるんですか? ヤスさんって、意外とおじさんですよね」

「そりゃね、アズより3つも年上の三十路男ですし、上司との飲み会や接待やらで鍛えられてますから」

「これが本当のヤスさんだったら、完全に全女性社員を裏切ってますよ」

「だから言うなよ? 週明けに広まってたら、犯人はアズだと断定するからな」

「バレたところで、特段変わりはないと思いますけど。離れたファンの分だけ、新しいファンが増えるだけで」

「罪な男だな」

「そうですね。彼女さんは色々苦労しそうですね」

「……アズ、おまえ色々間違ってるよ。これまでも突っ込みどころが多々あっただろ。真面目に返してんじゃねーよ。俺が恥ずかしい」

「気が利かない優等生ですみません」

「減らず口め」

「ヤスさんのテンポに飲まれてるだけですよ。もう、私が開けます! 今日は飲みますよ」

「バカ。少しは俺にかっこつけさせろよ」

安信は、緋衣が伸ばしかけた手を遮ぎってボトルを持ち上げると、クロス片手に濡れた底を拭う。

「ワインの扱いなら私も知ってますが、仕方ないので譲ってあげます」

「かわいくないぞ、優等生」

安信が悪態をつきながらも、ソムリエナイフで器用にキャップを外す。鮮やかな手さばきであっという間にコルクを抜いた時は、緋衣は思わず感嘆の声をあげてしまった。コツがあるとはいえ、抜栓は回数を重ねなければ上達しない。
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