インセカンズ
洗顔と歯磨きを終わらせてリビングに戻ってくると、キッチンテーブルには朝食の用意ができていた。

「コーヒーは食後? それとも先がいい?」

「先でお願いします」

緋衣が席に着くと、安信はコーヒーメーカーから出来立てのコーヒーをカップに注いで彼女の前に置く。

「朝からすごいですね。ホテルの朝食みたい。もしかして、朝、買い出し行ってきたんですか?」

緋衣は思わず感嘆の声を上げる。目の前に広がるのは、フルーツが添えられた完璧なアメリカンブレックファースト。見るからにふわトロのスクランブルエッグとカリカリに焼かれた厚切りのベーコン、色どりの良いフレッシュサラダに、真っ赤な色をしたジュースはトマトジュースだろう。

「身体が鈍るから週に何度か走ってんだよ。そのついでにな。食べようぜ」

「はい。いただきます」

「アズって、ちゃんとしてんだな。俺なんて、久しくそんな言葉言ってない」

手を合わせる緋衣の姿に、今度は安信の方が感心したように言う。

「ちゃんとっていうか習慣じゃないですか? 意識してやってる訳じゃないし」

「やっぱ育ちがいいんだな」安信は、アスパラをフォークで突くと口に運ぶ。

「そんなことないですよ。実家は一般的なよくある普通の家だと思いますけど、確かにしつけは少し厳しかったかもしれないですね。厳しいっていうより、過保護ですかね?」

緋衣は、いわゆる中流家庭で育った。実家は小さいながらも一戸建てで、そこに、中堅食品メーカーに勤めるサラリーマンの父とカルチャースクールでフラワーアレンジメントの講師をしている母、兄二人の五人家族で暮らしていた。
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