インセカンズ
「アズの方こそ、本気か冗談か分かんねーし」

「ヤスさんのペースに合わせて話すとこうなるんですよ」

緋衣にとれば単なる軽口で、いつもの安信との言葉遊びのつもりで言ったまでだ。

「ってことは、アズの新しい引き出し作ったのは俺だな。感謝しろよ」

「いちいち、大袈裟な物言いしますよね」

「俺からアピールしないと鈍いアズは気付かないんだから、それ位いいだろ」

「引き出してもらわない方がいい引き出しが開いちゃった気がしますけど」

「いいんだよ、それで。お堅く見られてるアズは、もっと色んな角度から開けてくれた方が嬉しいと思うヤツはいっぱいいると思うし、第一、おまえが楽だと思うよ」

「そういう意味では、ヤスさんって、気心しれた相手にはちゃらんぽらんですよね」

安信の言葉には遠慮がなく、茶化しながらも自分の本音を入れてくる。緋衣は、その率直さを怖いと思う反面、羨ましくも思う。

「ありのままの自分を受け入れてほしいなんて、おこがましいこと言うつもりないけど、ある程度、素の自分を出しておいた方が守れるものって絶対あるんだよ。自分が一番大切にしているものとか」

「例えば、何ですか?」

「それこそ、人それぞれだろ。例えばプライドとか、誰にも知られたくない本当の自分とかさ? 隠し事の数だけ隙を作るんだよ」

「それがヤスさんの隠し事なんですね?」

「浅はかだな。俺がそんな簡単に暴露する訳ないだろ」

吐息混じりにハッと苦笑する安信。緋衣が口を開こうとするが、一息先に彼が言葉を続ける。
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