インセカンズ
「アズ……。おまえ、今、別にそこまで興味ないし、とか思ったろ。顔に出てる」

「そんなこと思ってないですよ。ヤスさんて人が悪いですね」

「アズって、やっぱ聞き上手なようで、卒なく一線引いてるよな」

「まだ、ヤスさんにそこまで心許してないですしね。もっと打ち解けたとしても、私にはその部分は変えられない気がします。きっと、自分に自信がないから、全部曝け出しちゃったら誰からも受け入れてもらえないって思ってるところがあるのかもしれないですね。だから、私の場合はお高く留ってる訳なんかじゃ全然ないんですよ」

「アズがそう言っても模範解答にしか聞こえないのって何でだろうな」

「もしそうだとしたら、ヤスさんが私の事買いかぶりすぎているからですよ。私の事、どこか色眼鏡で見てるんじゃないですか?」

安信がタンブラーに口を付けたのを見て、緋衣も釣られるようにカクテルグラスを口元に運ぶ。甘くて苦いキュラソーとレモンジュースの爽やかさが鼻孔の奥を擽る。

「私は、ヤスさんにどう接すればいいんですか? 甘えてきてほしいんですか?」

緋衣の問いかけに、安信はふっと柔らかく笑う。

「そうだな……。そう言われると迷うけど、アズに慕われたら素直に嬉しいと思うよ」

「私、人に甘えるのって苦手かもしれないです。相手が男の人の場合、媚び売ってるみたいだし」

「アズは、彼氏に媚び売ったりしないんだ? まぁ、媚びと甘えは実際違うけどな。例えば、ペットボトルのキャップ開けてもらうとかさ、そういう小さなお願いしてくる子って、男からすると可愛いく感じるもんだよ。相手が男の場合、甘えるのってそんな単純で自分でもできるような些細なことで充分。本当、男なんて可愛いもんなんだぜ」

「そんなの自分でやれよ、とは思わないんですか?」

「そりゃ、思うよ。思うけど、男の本能っていうか、頼られると嬉しいんだよ。好きになっちゃう」

「一先ず、ヤスさんの落とし方は分かりました。機会があれば、試させてくださいね」

「意外とすぐに訪れたりしてな、それ」

それまで穏やかな笑みを浮かべていた安信だったが、今度はからかうような意味深な目をする。
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