インセカンズ
けれども、一向に起き上ろうとしない緋衣に、安信が「どうした?」と声を掛ける。

「思いのほか、体がだるくて……」緋衣がシーツに突いた肘をかくんとたためば、安信は途端に吹き出す。

「そりゃ、そうだろうな。そんなに声嗄らして。昨日何回やったか覚えてる?」

「一度や二度じゃないのは分かります」

「あんな無茶したの大学以来だけどな」

「私は初めてでしたけど……」

緋衣は、ぽつりとつぶやくように言うと、はっとして安信に背中を向ける。

「今、昨日の事思い出したんだろ。今さらテレんなよ」

安信が喉の奥でククク、と笑う。

「……どうせツンデレですから」

「自分でも分かってんじゃん」

「素直じゃないのは、自覚してます」

「いや。アズは自分の欲求に正直だよ」

「それ……。昨日の事に話し続けるのはやめてくださいね。居た堪れない……」

緋衣は、自分から何度も求めた事を記憶の片隅で憶えている。

欲しくて、もっと欲しくて。
足りない訳じゃないのに、とっくに満ち足りているのに、いつまでもこうしていたいと、安信へと伸ばす手を止められなかった。彼もまた飽きることなくそれに応えた。

結局、一人でいたくなかっただけかもしれない。一晩明けて考えてみれば、それが一番だったのかもしれないと緋衣は思う。

寂しかっただけなのかもしれない。女性としての魅力を確かめたかったというのもあるだろう。自分を求めてくれる異性であれば、何も安信である必要はなかった。彼はたまたまそういう時に緋衣の傍にいただけで。

不思議と、亮祐に対して罪悪感はなかった。緋衣の中で、彼はクロだと認識したからだろうか。寧ろ、付き合ってくれた安信に感謝さえしている。
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