インセカンズ
電車は緋衣の最寄り駅へと到着し、彼女が改札口を抜けたところで携帯に安信からメッセージが届く。

『お疲れ。もう家か? 俺はこれから一人宅飲み』

帰宅したばかりなのは知っている。シャワーを浴びて先ずはビールといったところだろうか。緋衣はくすりと笑うとさっそく送信する。

『お疲れ様です。さっきまでミチル達と飲んでて今改札出たところです。今日一日、誰かさんの噂で持ち切りでしたね』

『そうらしいな! 俺の婚約者、超美人らしいじゃん。俺、でかしたし(笑)』 

『違うんですか?』

『アズは違った方が嬉しい?』

駆け引きめいたことを言い出す安信に、何て打ち込もうかと逡巡する。もし緋衣が嬉しいと答えたらどうするつもりなのだろう。

『既読スルー』

迷ったあげく無難な回答をすれば、顔文字つきのメッセージがくる。

『ふざけてんのか(~_~メ)』

ふざけているのはどっちなのか、緋衣は怒り顔の顔文字を見ながら溜息交じりに笑う。

さて何と返そうかと考えていると、携帯が着信を伝えて震え出す。発信元は想像通り安信からだった。
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