インセカンズ
「ほら、締まってきた。そろそろいくか? アズのいき顔見てから、俺もいきたい」

安信は、快感を堪えるように指先に歯を当てる緋衣の手を取って組み合わせると、シーツに押さえつける。緋衣が身動きを制限されると絶頂を向えやすいという事は最初の夜で知っていた。

「いくときは、俺の顔見て、‘薫、いく’って言えよ」

安信は、眉間に薄らと皺を寄せながらも傲慢な口調で言い放つ。それは、いつ頃からか安信が始めた遊びだ。まだ自我が残っている緋衣は、声に出さずイヤイヤと頭を横に振る。簡単には言ってやりたくない。

緋衣は、安信が執着を見せる理由をちゃんと分かっている。過去に一度だけ身体の関係を持った年上の男性から、緋衣のなかの構造が普通とは違うことを教えられた。普通と違うといっても、それは女性として自信を持って良いものだともその男は言った。だからといって、最初はどんなにのめり込んだとしても、身体で繋ぎ止めていられるのは一時的でしかない事を知っている。過去の男達がそうだったように、だから安信のことも信用してはいない。

「アズ、言えよ」

切羽詰まったように荒い息をしている彼を見上げる。婚約者がいるくせに、他の女性にそんなこと言う男の言葉なんて聞きたくもない。けれども、もう一度お願いしてくれたら言ってあげてもいいかもしれない。緋衣は悔し紛れにそんなことを思う。

「アズ、言ってくれ」

自身も果てが近い安信は、さらに眉間の皺を深く刻むと緋衣の頬に唇を落とす。そして、彼女の耳元で掠れた声で囁いた。

その瞬間、緋衣は自分に襲いかかってくる絶頂の予感に、固く閉じていた唇を開く。躊躇うことはない。これは、お互いが気持ち良くなれる為の言葉遊びに過ぎないのだ。

「薫、イっ――」

全てを口にすることなく、緋衣は絶頂に背中を弓なりに撓らせる。意識を取り戻して見上げた先の安信は、優しい目をして微笑むと、次の瞬間、自身も欲望を放った。
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