インセカンズ
もろもろ回収してリビングに戻った緋衣は、寛いでいる安信の姿を見て眉を顰める。

「……危機感ないですね、ヤスさん。まさか、わざと鉢合わせ狙ってます?」

「何のために?」

「さぁ?」

「俺がそんなヘマするかよ」

ふっ、と口元をいやらしく歪める安信に、緋衣は理解する。

彼は女が来るとは言ったが、それがどの女なのかは言わなかった。本命だとすれば、扱いやすい温室育ちの純真なお嬢様。それでなければ、緋衣のように立場を弁えているセフレ、もしくはセカンドという事になる。そこまで思って、緋衣は自嘲気味に笑みを浮かべる。なんてことはない。安信だって、そこら辺のただの男と同じという訳だ。

「それじゃあ、行きますね」

「おう。また月曜に会社でな」

ビジネスバッグを片手に持ち、慌ただしく玄関に向かう緋衣の後ろに安信も続く。

「ちゃんとエレベーター使えよ。ここ五階だぞ」

「そういう事に気が付けるなら、無茶はしないでください」

「アズ」

「はい?」

玄関ノブに手を掛けようとした緋衣は、振り返りざまに唇に柔らかな弾力を感じて、訳が分からず目を見開く。

「面白い顔」

安信が緋衣の顔を覗き込んで小さく吹き出すと、緋衣はようやく状況を把握して、頬をかぁと赤らめる。

「もうっ、ばか!」

緋衣は、安信の胸を押して体を離すと、逃げるように扉を開く。

「気をつけてな」

安信が笑いをかみ殺している様子を背後で感じながら、緋衣は振り向く事なく部屋を後にした。
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