メランコリック
藤枝はにこやかに言う。二人の会話の内容はわからない。
ただ、親密な空気だけが伝わってくる。

肉体関係があるような濃厚な空気じゃない。
もっと純粋な、好意のある男女の淡い恋の空気感。


杉野が口元を爽やかな笑みの形にした。


「いいこだな、藤枝は」


その手が藤枝のボブの頭を撫でた。センター分けの髪がさらさらっと揺れ、その向こうの藤枝の表情がはにかんだ微笑みに変わる。
くすぐったいような柔らかな笑顔。

俺の前では見せたこともないような笑顔……。


無性に腹が立った。

まず、あいつらの親しい雰囲気に。

杉野は嫁も子どももいる。
藤枝に好意を持っていたとして、それって愛人扱いじゃないか。
藤枝だって、知っていて杉野に近付いてるなら、同罪だ。
自分を正しい人間だとは思っていない。だけど、不倫間近の男女が隣にいると思うとムカついた。


俺はドアをそっと閉め、残った朝セットをくしゃくしゃに丸めてゴミ箱に捨てた。
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