メランコリック
「昨日、内示が出て、俺の異動が決まったんだ。大阪支社へ」


「え……」


少なからず驚いた。
杉野さんは東京南地区のマネージャー。実質、営業部隊の筆頭だ。
時機に本部の中枢・戦略企画室に入るだろうと、店舗の人間は噂していた。
それが大阪支社。寝耳に水だ。


「急で済まないが、来週には籍をあちらに移す。南地区の後任は笹原さんに決まってるからよろしくな」


相良は短く「はい」と言って、さっさとフロアにレジを開けに行ってしまった。

スタッフルームには私と杉野さんが残された。私だって、早くフロアで開店準備に入らなければならない。

でも、杉野さんの顔を見たら、悲しくなってきた。
もう、滅多に会えないのか。
私の淡い恋も終わり。


「藤枝、俺がいなくてもしっかりな」


杉野さんが柔和な笑顔で言った。私は頷く。
すると、杉野さんが顔を近付け、耳打ちするように言った。


「よければ、明後日の晩、送別会をしてくれないか?」
< 92 / 220 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop