甘い時 〜囚われた心〜
久しぶりに帰ってきた屋敷。

生まれてこの方、こんなにこの家を離れる事があっただろうか…

家を離れていた時間が長いようで短いようで…

懐かしくて、キョロキョロしていた。

通された客間に正座して座った。

しばらくすると、自分を追い出した晋也と娘の祐希奈が入ってきた。

「久しぶりだな」

「はい…お久しぶりです…叔父様…」

軽く頭を下げる。

目の前にいる叔父を、ついジッと見てしまう。

やはり兄弟なだけはある。

雛子の父にソックリだった。

日本人離れした洋風な顔立ち。

男とは思えない色っぽさ。

切れ長な目は時に冷徹に無言の圧力をかける。

しかし、今、自分を見つめる目は、いくら父に似ているとは言え別人。

父の雛子を見つめる目は、愛情に溢れていた。


「だんだんと母上に似てきた…」

雛子は、母似。

雛子の母は着物が似合う、とても綺麗な人だった。

しかし、体が弱く、雛子を産んですぐに亡くなった。

< 108 / 175 >

この作品をシェア

pagetop