甘い時 〜囚われた心〜
心配そうに目を細める姿に怖くなる。

雛子は家出したのではない。

追い出されのだ。

祐希奈も知っているはずなのに…

あの日、家を追い出され、屋敷から離れていく自分を、この可愛い笑顔で手を振り見送っていた。

まるで、1・2時間で帰ってくる人を見送るように。

『頑張って生きてねぇ』

純粋無垢な笑顔を作る悪魔に見えた。

それなのに…


「ねぇ…雛子ちゃん…帰ってこない?いつまでも桐生院家にお世話になるわけにはいかないでしょう?私も、雛子ちゃんが桐生院家でメイドさんしてたら行きにくいし…」

「え?…」

「おい!」

黙っていた桜華が口を開いた。

明らかに不機嫌になっている。

「だって…」

祐希奈はチラリと桜華を見てから、信じられない言葉を言った。

「私と桜華様…婚約したの…」

辛そうな顔をして自分に祐希奈が言っている事が信じられなくて…

時間が止まったような雛子とざわついているクラス。

気づいた時には雛子はクラスを飛び出していた。
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