冷徹執事様はCEO!?
「燁子様」

名前を呼ばれて、重い瞼をゆっくり開く。

手の甲で目をこすると、見慣れた古い洋館が目に入った。

どうやらいつの間にか眠っていたらしい。田中の肩にもたれかかり、そのうえしっかり手も繋いだまま…。

私は慌てて田中から身を引き離した。

バツが悪くなり、家に入ると「着替えて来る」と言って、私は二階の自室に戻った。

適当な紺色の麻のワンピースに着替え、肌寒いので上には白いカーディガンを羽織った。

普段着に着替えホッと一息ついていると、ドアをノックされる。

「どうぞ」と返事をすると、田中がトレイを持って部屋に入って来る。

「コーヒーでもいかがですか」

「ありがとう」

暖かい飲み物を丁度飲みたかったところだ。
心使いが今は恨めしい。

テーブルにコーヒーカップが並べられたので、私はソファーに腰を降ろす。

そして何故か田中も私の隣に座った。

「ちょっと、向かいに座ってよ」

「この方が親密な感じがしませんか」

二コリともせず無表情のまま言われても、イマイチ親密感が湧いてこない。

「あっそ」と軽く聞き流し、一口コーヒーを飲む。

ブルーマウンテンね…

程よい酸味と香ばしく芳醇な香りが鼻腔に広がる。

田中の淹れるコーヒーはやっぱり美味しい。

おっと、寛いでいる場合じゃない。私は慌てて気を引き締めた。
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