天才に恋をした
「もたれていいぞ」
「もたれる?」
「肩に頭を乗せるんだよ」
苗は、少し考えて頭を横にした。
「ぶっ。こうだよ」
苗の頭を引き寄せる。
「これ『もたれる』って言うの?」
「正確には『もたれ掛かる』だな」
苗の満足そうな顔が、向かいのガラス窓に写っている。
電車は空いていた。
気持ち良さそうに走っている。
うちの生徒は、誰も乗っていないみたいだ。
さっさと連れ出したからな。
苗は眠ったらしい。
その髪にキスをした。
平和だ。
俺は平和しか知らないけど、これが平和だと思う。
未来を信じてる。
この先に何があるのか分からないけど。
俺も目を閉じた。