天才に恋をした
親父のドゴウ

28-1

「行くって…ナニそれ」

親父は、すぐに意味が分かったらしい。

怒るよりも呆れた声だった。



「無理でしょ」

あっさり言った。


俺は続けた。

「いや。俺も行く」

「何のために?お前が行って、どうするんだよ?意味分からないよ」


ようやく、母ちゃんにも飲み込めたらしい。

「行くって…留学のこと?」

「まぁくん、留学するの?」

姉貴が呆気に取られた声を出す。



「陽子、しばらく黙ってて」

親父が制する。


「お前、おかしいよ。今まで一度も留学したいなんて言ったことないじゃないか」

「ない。でも留学する」

「ナニを言ってんだ…お前はぁ…」

親父は、天を仰いだ。


「いいか?ワッダーパークの外国人枠は三十人しかないんだぞ?

アジア人は毎年五人前後しか受からない。

今さらお前みたいなサッカー馬鹿が受けて、入れるような甘いもんじゃないんだよ」


母ちゃんが、姉貴に目配せする。

姉貴は、苗から陽人を受け取ると、リビングから出て行こうとした。


「苗ちゃんも…」

「苗は居てくれ」

俺は言った。
< 157 / 276 >

この作品をシェア

pagetop