天才に恋をした
苗はただ事の成り行きを見ていた。

テレビでも見てるみたいに。


「苗ちゃんか。お前、苗ちゃんが行くから自分も行くって言うのか?」


「そうだよ」


「何だよ、ソレ。話になんないよ。じゃあ、お前は苗ちゃんが南米に行くっていったら南米に行くし、北極に行くって言ったら北極に行くのか?」

「そうだよ」

そうとしか答えようがない。



親父が、苛立ったようにテーブルを叩いた。

「ふざけんなよ。お前はこれから一生、苗ちゃんの後を追っかけてくのか!?」

「一緒に行く」


「そんなの…それでも男かよ。お前自身の人生は?え?どうなるんだよ!」

「俺は苗と行く。どこだって行く」


親父が遮る。


「情けないと思わないのか!お前がちゃんと大学卒業して、仕事して、苗ちゃんを食わしてくって言うんなら分かるよ!」


親父はテーブルの上で拳を握りしめた。


「オンナが外国に行くからボクも行きますなんて情けないだろっ!!」


親父は、俺をにらみつけて言った。

「ないない。そういう事言い出すには、十年早い」


俺は必死で呼吸を整えた。

試合中だって、こんなに緊張しない。


「俺は行く。誰が何て言おうが関係ない」



親父は、大げさなため息をついた。

「ヒロさん、この馬鹿になんか言ってやってよ。俺の手には負えないわ」
< 158 / 276 >

この作品をシェア

pagetop