天才に恋をした
車で蓼科に着いた頃には、もう4時を回っていた。
運転席の母ちゃんが、言った。
「ちょっと休憩して、夕飯はホテルで食べよ」
「結局、寝っぱなしだったな」
隣で、口を開けて眠り込んでいる苗を見た。
「座ってるだけっていうのも体力いるからね」
考えてみたら、コイツ体力なさすぎだろ。
「体鍛えないとな」
「え~?せいぜいウォーキングにしといてよ?」
自分がするわけでもないのに、母ちゃんが文句を言った。
しかも高校生がウォーキングって…
「筋肉つけないとダメなんだって」
「欽トレってことぉ?」
「まずスクワットを50回、2セットづつ。朝・昼・晩」
「やっだ!あり得ない!サイテー!」
「それからプロテインを…」
「ああヤダ!あああああヤダヤダ!」
この騒がしさに、ようやく苗が目を開けた。