天才に恋をした
泣いて興奮したからか、苗は猛烈な勢いで腕や足を掻き毟り始めた。


「掻くなって」

「かゆい…」



あ。忘れてた、オイル。


「どこが一番かゆい?」



苗は黙って、腕の辺りに目線を下した。

三つ、大きなハレがある。


ビンのふたを開けると、ラベンダーの香りが広がった。

指につけて、腕のふくらみに乗せる。



「俺は好きな匂いじゃないな」



再生ボタンでも押されたように、苗が話し始めた。

「ラベンダー。シソ科。チンツウ、チンセイ効果があり、ヤケドだけでなく、フミンやジリツシンケイのフチョウにも…」

「お前の匂いが消えるし」


解説が止んだ。



「あとは?」


何も答えない。

でも足先が反応した。



「ここ?」

「あ…あの、」

「じっとして」


苗が俺の手を止めた。


「も、もう、自分で…」

「出来ないんだろ?」

「で、できる」



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