天才に恋をした
苗が記憶力で問題を埋め始めると、すぐに分かる。
ペンの動きが早くなり、まばたきや呼吸をほとんどしなくなる。
「おい」
苗のペンをつかむ。
「暴走モードに入ってるぞ」
苗がハッと息を吐き、体を起こす。
「ココだよ、ココ」
暴走を始めた位置を指差した。
「よくやるよね」
母ちゃんが、爪を塗りながら言った。
「真咲は、うちのジーサンに似たんだよ」
親父が言う。
「自分のボロ家より先に、神社を建て直しちゃう人だったからな」
うるせーな、ちくしょう。
リビングで、勉強を始めたのは失敗だったか。
いちおう女だから、個室はチョット…
という訳じゃない。
苗を見張りながら、自分も勉強できるくらいの横長スペースがないからだ。
「ここの数字が常に先だろ」
苗はうなずいて、ペンを動かし始める。