天才に恋をした
小さな背中が固まっていた。

そして、絞り出すように言った。

「あの子たちには生きる権利があった。私は勉強して、勉強して、その権利を守るの」


こんな苗、初めて見た…。


「私はあの子たちを迎えに行く。生まれ変わっても今度は大丈夫だよって言いに行くの…!」



カミサマ。


試合で二度と、あなたの名前を呼ばない。

だから今だけ、

俺を許してくれ。



震えている苗を後ろから抱きしめた。

「ごめんな」


だから、頑張ってたんだ。


だから…



ぐっと腕に力を込めた。

苗の顔を自分の方へ向かせようとした。



頭の中でイエローカードが出された。


正月に一瞬見ただけの苗のカラダが、リアルに迫ってきた。



バキッと、何かが折れる音がした。

ハッとしたけど、それは幻聴だった。




苗から離れた。


「…コーヒー、入れてくる」

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