ハイカロリーラヴァーズ
「言うことって……なんでしょうか……」

「お金とかじゃないですよ。うちにはよく出来た妻が居るので、ちゃんとやってくれていますし」

 あなたの奥様の話なんて出して、そんなこと聞きたくないけど……。なにを言い出すのだろう、この人は。どうするつもり?

「うちの妻は、あなたみたいなビッチじゃない」

「な……」

「ビッチはビッチらしく、使えるものを差し出してください。減るものじゃないでしょう」

 ……酷い。あたしを蔑んで、そんな酷い言い方。

「ね。そうだなぁ……昼休み、ちょっとつき合って貰いますよ」

「松河せ……」

「言っておきますが、いますぐ辞表を出したってだめですよ。そんなことをするならばらします。ねぇ、あなたにとっては大事な大事な青司くん……将来のある彼を、守りたいでしょう?」

 汚い。悪党、悪人。心の中で罵って、あたしは泣きそうになった。

「さぁ、授業に遅れます。僕は先に行きます」

 なにごとも無かったような顔をして、松河先生はあたしの前から去ろうとした。

「逃げたら、分かってますよね」

 念を押すのを忘れない。

「……最低。クソ男」

「お口が悪いですね。さすがです。では、のちほど……」

 そう言いながらまた眼鏡を直し、あたしに背を向け歩いて行った。

 最低、最悪。

 自転車置き場に取り残されたあたしは、腹の底からの怒りと不安を抑えきれないでいた。震えが出てしまう。

 昼休み……。

 守らなくちゃいけない。青司を。あたしがここを追われるのは構わない。でも、予備校にばれれば、青司に迷惑がかかる。

 どうすればいい。でも、あたしには選択肢も強力なカードも無い。

 重い気持ちと体を無理矢理動かして、更衣室へと歩く間、うまく呼吸が出来なかった。



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