キミのその嘘つきな、
紙袋が足元へ落ちた。
公園から漏れる街灯は、淡く。雲で見え隠れする月は、夜に突き刺すナイフの様に鋭く。
夜に浮かぶ幹太のシルエットは、私に重なり、――夜から私を隠してしまった。
「離してよ」
両手を掴まれ、壁に縫い付けられたまま、何だか恥ずかしいし泣き顔を見られたくなくて俯く。
「――桔梗」
スルスルと、繊細に幹太の指が動く。ゆっくり、輪郭を描く様になぞるのは、――私の薬指に輝く指輪。
幹太は何度も何度も、優しい手つきで指輪の輪郭をなぞった。
「俺が、言えばお前は困る癖に」
「え?」
「俺は、――ずっと言わない。言えるわけないんだ」
悲痛な、痛々しい声。顔を、見たい。見ては、いけない。
――見上げても、淡い夜の輝きは、上手に幹太の表情を隠した。
「桔梗。オメデトウ」
優しい、――蕩けるように甘い優しい声だった。
私の名前は、春月堂の暖簾に描かれている桔梗の紋から付けられた。今日買ったどら焼きにも焼き印に桔梗が彫られている。
親同士が仲良しで、幹太の家の庭に毎年咲く桔梗の花が、まるで朝を迎える紫色の夜空の様に咲き乱れるのでその名を付けられた。
だからずっと私は自分の名前の由来になった春月堂も、その家の幹太も特別な思い入れで接してきた。それだけなのに。