いっぱい好きになってもらうから。
 親友の彼だから諦めようと自分で自分に何度も言い聞かせてきた。でも、いつでも好きなことに夢中で明るく笑う彼は、諦めるには眩しすぎたのだ。

「じゃあ、俺も努力する」
「何の?」

 そう言ったとき、コウタがふわりと私を抱いた。いくら幼馴染でもこんなに至近距離で彼を感じたことはない。ドギマギする私の髪にコウタが頬を押しつけた。

「アオイの心をタツキから奪う努力をする。だから、アオイはタツキを忘れる努力をしてほしい」
「ちょっと待って、どういうこと?」

 私はコウタの顔を見ようとしたが、彼は私を離してくれない。

「靱帯の手術のとき、自暴自棄になっていた俺を、家族でさえ腫れ物に触るように扱った。でも、アオイはずっと黙って俺のそばにいてくれた。あのときから俺はずっとアオイのことが好きだったんだ」
「そんな前から……?」
 つぶやく私にコウタがたたみ掛ける。
「そう。だから、タツキを忘れて俺を好きになってほしい」
「タツキを忘れて……コウタを……」
「な、一歩進もう?」

 コウタが私の両肩をつかんで、顔を覗き込んできた。

 その強い意志を宿した瞳に見つめられて、私は知らず知らずうなずいていた。

 そうだよね、このまま一生タツキを想って過ごすなんてできっこない。そんなの耐えられない。

「わかったわ。努力してみる」

 とたんにコウタの口元が緩んで、切なげなのに淡く甘い笑みが広がっていく。
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