【短編】真夜中のサンキャッチャー
「や、あの、何か……きゃあ!」
ゴン!
仰け反るあまり、私はバランスを崩して頭を背後のガラスにぶつけた。流行りの壁ドンではなく、これでは窓ゴン……。恥ずかしさのあまり顔が熱くなる。
「大丈夫?」
「大丈夫です、恥ずかしい」
「そうじゃなくて。懇親会のときから思ってたんだけど、顔色も優れないし。熱、ある?」
徐に上がっていた小井川さんの手は、私の額に当てられた。ヒヤリ。その手は冷たい。でも私の額は沸騰するようにカーッと熱くなった。
「熱いよ。やっぱり休んだ方が」
「いえ、違います。あの」
私の顔が赤いのは、額が熱いのは、風邪のせいじゃなくて、小井川さんに触れられたから……。
「木嶋さん?」
「……何でもないで、す」
でもそんな言い訳を口にする訳にもいかない。
「メールしたのに返事も来ないし。とりあえず今日は上がったほうがいい。課長には明日俺から……」
メール?
目の前の小井川さんに、香るシトラスに、触れられた額に、私はパニックに陥ったのか、小井川さんの声は段々と小さくなる。そして、ふわりと体が浮く気がして咄嗟に目を閉じた……。