脳電波の愛され人
それに耐えきれなかったのか、真冬という子が間に入ってきた。
「喧嘩、ダメ。」
夏姫という人と銀色の人は、真冬という子を見て、喧嘩をする体制を崩した。
「わかりました。喧嘩はしません。
しかし、どうやって決めましょう?」
銀色の人は頬に人差し指を立てた手を当てると、首をかしげた。
「もう、ジャンケンでいいんじゃねーか?」
「そうですね。ジャンケンにしましょう。」
……どうやらこの話はその程度らしい。ジャンケンポンという掛け声と共に三人の手はそれぞれの形をして出された。
真冬という子は拳を握り、銀色の人と夏姫という人は、人差し指と中指を立てた状態だった。
「これ、もらう。」
真冬という子は少し笑い、僕の元へ近づくと、足錠に触れた。
すると、足錠がピキッと割れ、僕の足は自由となった。
「ちぇっ。せっかくの美貌だったのに。でも姉さんなら、まぁいいか。」
「ジャンケンで決めたことです。仕方ありません。」
負けた二人はそんなことを呟いていたが、なぜそんなに僕がいいのかよくわからなかった。
昔から僕は人に好かれもせず、嫌われもせずで生きてきた。なぜかひいきされることはよくあったが、それは僕の運がいいからだと思う。みんなフレンドリーで、いじめとかはまったくなかったから、嫌われるというのを知らないだけで嫌われていたのかもしれないけれど。
僕は自由になった足で立ち上がると、真冬という子についていった。
真冬という子は僕がついてきているのを確認すると、ポテポテと右のドアに向かって歩いた。そして、そのドアをくぐり抜けると、僕がくぐり抜けるまでドアを押さえていてくれた。
ドアをぬけた瞬間、僕は息をのんだ。
目の前にはとてもきれいな草原が、視界いっぱいに広がっていた。
「ここ、あげる。」
真冬という子はそういうと、ポツポツと前に歩き、手を目線まで上げた。
何をしているのかわからなかったけど、しばらくたつと、瞬きした瞬間に、一軒の家がたっていた。
僕は驚きを隠せなくて、思わず声を漏らしてしまった。そしてその家に近づくと、壁に手を当てた。壁はレンガでできていて、ひんやりと気持ちよかった。
「気、入った?」
真冬という子が首をかしげながら訊ねてきた。
僕がうなずくと、真冬という子は嬉しそうににっこりと笑った。
そのときだった。突然、乾いたオルゴールがなり響いた。
僕はびっくりして、辺りを見回した。
すると、かなり遠くに目の閉じたツインテールの青い髪の女の子がいるのが見えた。風が強いせいか、髪の毛が激しく舞っていた。
足が不自由なのか、機械式の車椅子にのっていて、なぜか腕は手すりの内側にあり、首が少し傾いていた。フリフリしたドレスを着ていて、力なく座っているので、まるで人形が乗っているように見えた。いや、もしかしたら人形なのだろうか。
始めはどうしてだんだんこんなにはっきり見えるようになっているのかわからなかったけど、どうやらその子は僕の気づかない間に、僕に近づいているらしい。
「ダメ!隠れて!」
真冬という子が叫んだ。
僕はなぜ隠れなきゃいけないのかわからなかったけど、とにかく隠れた。……いや、隠れようとした。しかし、何処に隠れたらいいのかわからなかった。
「壁、後ろ!」
真冬という子がまた叫んだ。僕は急いで壁の後ろに行った。オルゴールの音がだんだん大きくなっている。すぐそこまで来ているのだろう。
真冬という子は僕が壁の後ろに隠れたのを確認すると、自分は屋根の上にはしごから上って、相手の方をじっと見つめていた。
僕も相手の距離とかが気になって、少しだけ壁から顔を覗かせた。距離はあまりなく、あと数十秒もしないうちにここへとたどりつくだろう。
真冬という子は僕の行動に気づいたのか、驚いた視線を僕の方に向けた。
「見る、ダメ!」
真冬という子がそう忠告したときにはもう手遅れで、青い髪の子の目がカッと開いていた。
僕はその子の赤い瞳に意識を吸いとられるように、その場にバタリと倒れこんだ。意識はギリギリあったが、長く持たないだろう。
真冬は僕に駆け寄ると、必死で僕を揺すった。この光景は、火事のときとよく似ていて、滑稽だった。
僕は近づいてくる青い髪の子が気になって顔をあげてみたけど、そこには何もいなかった。
そして僕は襲ってくる目眩に耐えきれず、意識を飛ばした。
< 3 / 12 >

この作品をシェア

pagetop