脳電波の愛され人
黒い人とは酷いなあと思いつつも、結局僕は僕の名前を知らないので、どうしょうもなかった。
今さっき千草に、「名前は『黒』で決定じゃな!」と言われたけど、「くろ」はどうかと思う。まるで猫みたいだ。
「私達が勝った場合は、牢屋でのジャンケンの無効化……で、夏姫達が勝った場合は、……黒い人を真冬のものとする……と。最後にインクで指紋をつけて……完成!」
千秋は紙を上にあげた。しかし、あまり意味のないことに気づき、慌ててさげた。
そして、すぐに提出するかと思えば、僕の元へと走ってきた。
「あなたもご覧になりますか?初めてのようですし、参考になりますよ。」
ニコッと笑顔で言われた。
何も言わずに見てそのまま返すのが彼女のためだろうか。それとも教えてあげるのが彼女のためだろうか。
……ここは将来のことを考えて、教えてあげよう。
「いや、君、思いっきり声に出してたから。」
僕は素っ気なく言った。
彼女の顔はみるみるうちに赤くなり、「お見苦しいところをお見せしてすみませんでした。」
と静かに早口で言うと、そのままカウンターの人に提出した。
カウンターの人は紙を確認した。そして、一番下を見て、「ここ、夏姫さんの指紋が無いです」と言って返された。
千秋は急いで夏姫に指紋をつけてもらうと、急いで提出した。
今度はよかったらしく、僕達を手招きして呼んだ。
「ではワープします。この円の中に入ってください。」
カウンターの人の声が聞こえたと思ったら、いきなり目の前が暗いところへと変わった。

「はい、皆さん。位置についてくださーい。」
突然声が響いた。この幼く少し癖のある声は、恐らく、夏姫たちのいとこだろう。
暗いと思っていたところは、どうやらステージらしい。ガラス越しに千秋と夏姫、義人、弥波が見える。
「司会進行はこのわたくし、瀬螺がお送りしまーす。」
「せら」は中心部のとても高いところに器用に立っていた。そしてコードのないマイクを片手に実況をしようとしていた。
「脳電波について教えてやろうか?」
今まで気づかなかったけど、隣には千草がいた。
千草はガラスの前のスペースにほおずえをつきながらニコリとした。
「もう知っているからいいや。」
僕は率直に断った。千草は残念そうに眉の外側を下げた。
僕達はガラスの外を見た。そこでは笛の音はもうなったのに、一向に動く気配を見せなかった。
千草は沈黙に耐えられなかったのか、再び僕に話しかけた。
「じゃあさ、それぞれの脳電波について教えてあげようか。」
千草は僕の方を見て、またニコリと笑った。僕は単純に知りたかったので、うなずいた。
千草はガラスに目を移すと、話し出した。
「まず、われの弟の脳電波は、『音を聞こえなくする』じゃ。
一見地味に見えるが、実際は地味じゃないぞ。……多分。
これは両方にハンデを与えてしまうから、上手く使った方の味方となる。……コントロールできればいいんじゃがな。
次に千秋じゃが、あやつは『分子を消失させる』じゃ。
あやつの脳電波は、確かおぬしにもかかっておったのう。しかも、0.01秒ごとに戻されるから、1秒ごとにしか使えないという欠点をおぎなっておる。まぁ、自分で調整できないだろうがのう。
ちなみにあれは触れないと使えないそうじゃ。
そして、あやつらのコンビは、音を聞こえなくすることを上手く使って、脳電波に頼らずに戦う戦法じゃ。
続いてもう片方のチームへといこう。
弥波は、『眠らせる』じゃ。
これはおぬしも体験したことがあるじゃろう?しかも、めったに現れない後遺症のうちのひとつを受けてしまったのじゃし。
これは目と目を合わせないと有効にならないから、二回目以降あまり役にたたない。たいてい対処として……ほらほら、あいつらもやっておる。メガネ等をかけるからな。
そして夏姫だが、あやつは『金属を増加させたり、別の種類の金属に変えたりする』じゃ。ようは金属を変形できるわけじゃ。
これは欠点という欠点は特にないけど……おぉ、あったわ。金属に触れていなかったり、金属が錆びすぎて脆くなりすぎていると、これはできないらしい。
そして、こやつらのコンビは、初回じゃと眠らせて攻撃、二回目以降じゃと金属で槍を作り、その槍で刺しまくるという戦法じゃ。
……ちなみにいっとくけど、攻撃を受けてもあそこにいたら痛くないし、参加者が死んだと判断されたところで終わりじゃからな。ただグロいけど。だから暴力喧嘩はここでやるように決まっているのじゃが……。
ああ、それと、あの司会者は『自分の体の一部とひとつの物体をそれぞれ引き合う磁石にできる』じゃ。
あそこに安定して立っていられるのもその脳電波のおかげじゃろう。
ちなみにこのコロシアムには永遠のレムが埋め込まれているため、脳電波が出なくなることはない。
……ちなみにわれの脳電波は『生命が尽きるまで出来事を記憶する』じゃ。
なぜかしらんが、おぬしのようにレムがなくとも出ておる。」
千草は話し終えたようで、僕の方を見た。
「義人は『記憶を忘れさせる』じゃないの?」
僕は疑問に思っていたことをぶつけてみた。しかし、千草は何ぞとでもいうように首をかしげた。
僕は追求してもしょうがないとはんだんした。そして、千草にお礼を言うと、ガラスのほうに視線を戻した。
僕はガラスに手を添えた。そこではまだ一向に動かない四人がいた。

数秒たって、やっと義人が走り出した。音は聞こえない。恐らく彼の脳電波だろう。
続いて千秋が動き出した。そしてそのまま夏姫へと突っ込んでいった。
夏姫は金属でできたピアスをはずすと、その金属で二本の槍を作った。
弥波は夏姫から一本もらうと、その槍の先を義人に向けて、そのまま走った。
義人はそれを正面で受けた。
見事に槍は腹を貫き、血液が大量に溢れ出た。しかしそれに動じずに、義人は槍を腹に刺したまま急いでその場から離れた。そしてその槍をぬくと、弥波の頭から思いっきり槍をぶっ刺した。
義人は弥波が動かなくなったのを確認すると、その槍を千秋の方へと投げた。槍は回転しながら千秋の出前に落ちた。
千秋はそれを急いで拾うと、槍の先を夏姫へと向けた。そして義人は恐らく出血多量が原因だろう。その場に倒れこんだ。
義人が倒れたせいだろうか。音が聞こえるようになった。しかし、なんともいえない沈黙が広がっている。
しばらく二人の槍の戦いが続いた。
ぶつかりあっては引き、またぶつかりあうの繰り返しだった。
キンキンと、心地の良い金属の重なりあう音が聞こえてくる。しかし、声は全く聞こえず、聞こえるとしたら僕達がする呼吸くらいだ。
これじゃあきりがないと判断したのか、夏姫は槍をさらに強化し、三又槍にした。
二人はさらにぶつかりあった。しかし今度は今までとは違い、千秋の槍が三又槍によって押さえられてしまった。
そして、ここぞとばかりに夏姫は脳電波を使い、千秋の槍を自分の槍で包み込んで、一体化させようとしていた。
千秋は驚いていた。金属を消そうかという迷いの表情がみられたが、何か思いついたように、トンッと前へと飛び出すと、ガバッと夏姫に抱きついた。
夏姫は何をされているのかわからない風だったけど、だんだん思い出したかのように、普通の表情が焦りの表情へと変わった。
夏姫がふりほどこうとした頃にはもう遅く、夏姫の上半身は綺麗さっぱりと消えていた。そして、残された下半身からあふれでる血液は、千秋の胸のしたあたりまである紺色のスカートと胸のしたあたりまでしかない白いシャツを染めていた。
「決まったー!この戦いは、千秋さんの勝利でーす!」
一人で盛り上がった瀬螺を哀れみの目で見つめようか迷ったが、結局、暖かい拍手を送った。しかし、千草にとめられたので、とめた。千草がいうには、これは一種の裁判みたいなものらしいから、拍手は送らないそうだ。

僕たちは、ワープをして戻ってきた。
するとそこにには、もうすでに他の四人が集まっていた。
「暴力で決めたことだ。潔く認める。
だがしかし、お前のと決まったわけじゃねーから。もちろん、お前のものにもできる可能性はあるけど、あたしのものにもできる可能性がある。
……次は負けねーから。絶対に勝ちか引き分けの二択にしてやるから。」
そう言い残して、弥波と夏姫はここから出ていった。
「私たちも帰りますか。」
「そうじゃな。名前もつけれたことだし。」
「え、どんな名前ですか?」
「黒。」
「それはペットにつける名前じゃろ!」
義人がいいつっこみをしたところで、僕はふと気がついた。僕の服装だ。
僕は今、ボロいワンピースを着ているのだ。しかもノースリーブで、足が膝上まで見えているのだ。
「あの、服を何か貸してくれない?」
僕は恐る恐る義人に聞いてみた。
「おう!いいぞ!丈があうかどうかわからんがなぁ!お前の頼みとあらば、貸してやろう!」
義人は、どうやら快く貸してくれるようだ。僕は少し安心した。
「丈が問題なら私のを着ますか?恐らくサイズはピッタリでしょう。」
千秋が横から入ってきた。
確かにサイズは似ているかもしれないが、さすがに女物はきたくないなぁ。
「どうせなら、明日われと共に商店街へ買いにいかぬか?服はやっぱり自分で選んだものの方がいいと思うのじゃが。」
千草もひょっこりと顔を出した。
僕的には一番最後の選択肢がいいのだが、問題は買いに行くときだ。この服で商店街はまずいだろう。
僕はそのことを話した。いろいろ話し合った結果、とりあえず義人の部屋に泊まることになった。

どうやら三人とも一緒の寮に住んでいて、千草と義人は姉弟だから、一緒の部屋に住んでいるらしい。
僕達はその寮へと向かった。寮は僕がいた場所のかなり近くで、ホテルみたいな大きさだった。
中に入ると、カウンターの人に帰ったことを伝え、僕を泊めることも伝えた。
僕は義人の部屋にあがらせてもらった。
義人の部屋は和風で、畳が敷き詰められていた。そこに座ると、服に藁がたくさんついた。けれども、心地よかった。僕はここに座り、指示があるまでずっと待った。
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