て・そ・ら


 絵は、個人戦だ。

 誰とも共同ではないし、正しくは、競争もしない。

 全て自分の世界で、自分の為に、自分が気に入るように色を重ねていくのだ。

 油絵に水はいらないから汚れ防止にエプロンを使う。そしてあたしのエプロンは、今イーゼルの上に立てかけた絵に広がる空みたいに、一面のブルーだった。腕が擦れてつく絵の具をふき取るたびに、あたしのエプロンは青に染まっていく。

 元はベージュのエプロンがブルーに。それだけの時間、あたしはこの作品と向き合っている。

 広がる青空、そこに少しずつ赤を足している。だって、あたしを魅了するのはいつでも青空と何かのコントラスト。この絵のメインは青空でも、絵の中に散らばるエッセンスは紅葉なのだ。

 青空に、黄色や赤の鮮やかな色彩。だけどそれが生きるのは、バックで染まる見事な青空があるからなのだ。

 幾重にも青を足したその中に、細筆で紅葉を形作っている途中。とても集中力がいるし、指先も瞬きが少なくなる瞳も痛くて大変なことになる。

 部室内は無言。油の匂いと水を溶く音、それから微かな筆音や風音だけなのだ。緊張感に満ちていて、それぞれが自分の世界に没頭している。

 作品展まで締めきり2週間、我がクラブは今、戦争状態だってわけだ。


 あたしは先生が通り過ぎるのを待って、椅子を引いて立ち上がる。

 集中力が切れちゃった、ちょっと休憩。

 鞄に突っ込んであるペットボトルを引っ張り出して、強烈な夕日を遮るためにカーテンを引いてある教室から出る。ティーブレイクは皆、解放感のある廊下でする。


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