て・そ・ら


 とにかく、それはおいておいて。

 あんな小さい黄色のボールを、あんな大きなラケットで打つなんて楽勝じゃないの?なんて考えてた少し前までのあたしを叩きたい。

 実際、結構難しかったのだ。大した力でなく打ったボールが、あっさりホームランになって飛んで行ってしまったり、力を入れたものが全然向こう側に届かなかったりで。

 上手く行かない。それだけで、テニス部に所属する人達を尊敬してしまったほどだった。何だボール!小さいのにムカつくなあ!うまく操れない自分にイライラして不機嫌になったりもした。

 でもあれ、何とかならないのかな。女子テニス部員の、打つ前の奇妙な踊りみたいなやつ・・・。確実にボールを打つために決められたポーズらしいけど、申し訳ないが笑える。

 晴れ上がった秋空に、クラスメイトの笑い声や声援が吸い込まれていく。

 その透き通った青を眺めていたら、黄色いボールが神様の使いみたいに思えてきた。

 打ち上げられて、重力に従って地面に落ちてくるボールを見ていたら。

 ほら、何か・・・天から降りてきた、メッセージ、みたいな。

 ちょっと目立つように、凄い青色に紛れてしまわないように黄色にしたのかな、って。

 それで、あのまん丸の中には手紙がつまっていて―――――――――・・・

「ほら!佐伯さんでしょ、次!」

「へ?」

 妄想しまくっていたら、ラケットで頭を軽く叩かれた。

「いたっ!」

「ほらほら、ぼーっとしてないで。順番なんだから!」

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