て・そ・ら


 しかもやつは、たま~にではあるけど寝言まで言う。寝言だよ、寝言。それも若干耳にひっかかるかどうかってくらいの微妙~な小声で。

 自分に話しかけているのだと勘違いして、え?などと横を見た日には、一日中心の中で彼のことを「この野郎」呼ばわりする羽目になるのだ。寝言に反応してしまって恥かしくて。自意識過剰だって判ってる!だけど、とにかくあれは恥かしい。他のクラスメイトに一連の動きを見られていたら、その恥かしさは更に増す。

 だから横内のそれを意識から遠ざけようと必死になったあたしは授業に集中した。

 よって、その間の成績は大変よかった。

 そして夏休みが終わってダラケ出した生徒に刺激を与えるため、担任が席替えを言い出したのは2週間前。あたしはまた、横内の隣になったのだった。だから多分またあたしの成績は上がるはず。

 そう考えたら、横内だって別に悪いやつじゃないよな、うん。

 あたしは電車の中、大げさなくらいに一人で頷く。

 悪いやつではない、うんうん。そこまで横内のことは知らないけど。奴がテニス部だっていうのも、机の横に鞄といっしょにラケットの大きな袋がぶら下げてあるから知っていることで、別に情報通の女の子から聞いたわけでもない。

 古いレールがきしみ、電車は山を駆け下りていく。あたしは眩しくて直視出来ない車窓の風景を、しかめっ面でじい~っと見ていた。

 ・・・唇が、ひっついた。

 ってことは、横内ってあたしと同じくらいの背なんだな。

 いつでも寝ているから知らなかった。

 それに、横内の驚いた顔も新鮮だった。

 寝てるか、友達と笑っているか。その顔しか知らなかった。


 同じクラスになって約半年、あたしは初めて、そのクラスメイトを意識した。



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