女子力高めなはずなのに
私の気持ちを無視して、井川さんは椅子をグイッと近づけると私をそっと抱き寄せた。

また優しく包む温かいあの感触。

ダメだよ……。

どういうつもりで抱き締めてるの?

こんなこと、いろんな人にしてるの?

でも、この感触……。

欲しかったこの感触は温かくて嬉しくて、たまらなく胸が痛くなった。

この人の心が私の方を向いていてくれたらどれほど幸せだろう……。

そう思うだけで切なくなる。

つい甘えて顔を胸に埋めたら、抱き締める腕に力が入った。

こんなことをして、この人本当に悪い人……。

苦しいよ。

井川さんのことを想うと苦しい。

苦しくてたまらない。

だから早く忘れたいのに、こんなことをするなんて。

ダメ!
早く離れないと……。

「こんなことしちゃダメ。セクハラだよ」

そう言って腕を突っ張って、体を離した。

「……ダメなの?」

やだ……、そんな切ない目で覗き込まないで。

なんで抱き締めたりしたの?
心に決めた人がいるくせに。
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