女子力高めなはずなのに
中学生の頃は、ほんの些細なことで兄貴と殴り合いの大喧嘩をすることがあった。でも、兄貴は二つ年上のくせに俺よりずっと弱かった。

兄貴を殴って拳の痛みを感じた時、自分の憎悪を感じて、己の醜さを目の当たりにして思わず殴る手を止めることが何度もあった。

一生忘れられないあの瞬間。あの感覚。

でも、あの殴った感触だけが、俺の中に残った兄貴の記憶になった。あんな喧嘩をするくらいしか、俺たちは関わることがなかったから。

殴られることが分かっているのに兄貴が喧嘩を仕掛けてきたのは、そんな関わりでも構わないから、わずかな繋がりを俺に求めていたのかもしれない。

人間には、人を人と思えない瞬間がある。それが一瞬なのか、ずっとそういう人間なのかは、人それぞれだろうけど。

喧嘩をしている時、兄貴を人と思えない瞬間があった。思い出すと自分で自分が恐ろしくなる。だから俺は、兄貴以外は誰も殴ったことがない。

でも、俺たちの母親は、ずっと人を人と思えない人間なのかもしれない。あの人は俺たちのことを人だなんて思ったこと、一度もないんじゃないだろうか。

兄貴が死んだ時、兄貴が抱えていた重圧を初めてこの身に感じて、母親の矛先が俺に向くのを感じた。

だから、あの家には近づいていない。

でも、ずっと逃げているわけにもいかない。いつかは向き合わなければいけないんだ。
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