女子力高めなはずなのに
「イツキくん、カズくんって呼ばれてるの?」

宗像さんは振り返ると銀縁眼鏡をスッと中指で上げた。

「あっ……すみません!」

さくらは反射的に謝った。

「いやいや、悪いことは何もないんだけどね、カズくんだと僕のことになっちゃうからさ」

「?」

さくらは不思議そうな顔をした。
そうなんだよな。この人は宗像一樹。俺と同じ名前だが、読み方が違う。宗像さんはカズキ、俺はイツキ。

この、奇妙な名前の一致も親戚の噂に拍車をかけた原因の一つだ。母親は「補欠だって繰り上がれば長男になるんだから、一の字を付けて何が悪い」と一蹴したらしいが。

そうだとしても、なにも同じ名前にすることはなかったんじゃないのか?

どういう気持ちで母親は俺に名前を付けたんだろう。宗像さんと同じ名前だなんて、気にも留めなかったんだろうか。それとも……。
その時、父親はどう思ったんだろう。

「母親の前では『カズくん』はやめておいた方がいいかもしれないね」

俺がそう言うと、さくらはうなずいた。

「……イツキさん」

さくらにそう呼ばれたら、ちょっとくすぐったくて肩をすくめた。さくらもそう呼んだのが照れ臭かったらしく、赤くなってうつむいた。

そんな俺たちをそっと眺める宗像さんの視線はとても柔らかかった。
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