女子力高めなはずなのに
改めて和室に通されることになった。

宗像さんに見送られて応接室を出た後、廊下を歩きながら、一応さくらに和室で気を付けることを伝える。

「和室に入る時、ふすまの敷居は踏んじゃダメだよ。あと、畳の縁も踏んじゃダメ」

「そうなの?」

「そ!あとは俺がやるのを見て、そのまま同じように動けば大丈夫だから」

「……うん、分かった」

そういう礼儀作法は、俺を育てたババアにやたら厳しく叩きこまれた。ババアというか、家政婦頭のような人。

芳江さんというその人は、幼い頃、俺の面倒をみてくれた。ピカピカに磨かれた飴色の床板を見ると「木目に添って平行に!」と雑巾がけの方向を教えてくれた芳江さんの皺だらけの手を思い出す。

でも、芳江さんは俺が小学校を卒業してすぐに死んだ。その時から俺は完全に孤独になった。
いや、時々訪れる宗像さんを除いては。

ふと見ると、さくらは相当緊張しているのか、うつむいた頬は青白かった。前を行く家政婦に見えないよう、そっと後ろに手を伸ばして手を繋ぐ。

「俺が一緒にいるから、大丈夫」

小声で話しかけると、さくらはがんばってひきつった笑顔を作って見せた。

大丈夫、なんて言ってる俺自身もかなり緊張してるけど。でも、何があってもさくらは必ず守るから、大丈夫。

通された和室に、まだ両親は来ていなかった。薄暗い和室で、座布団の後ろに控えて待つ。

こういう緊張感は、久しぶりだな。
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