女子力高めなはずなのに
いきなりスッとふすまが開いて、母親が入って来た。一気に緊張感が膨れ上がる。その後ろから父親が影のように入ってきた。

着物を着た母親は相変わらず足音も立てず、素早い動きで表情一つ変えずに俺たちの前に座った。

50半ばのはずだが肌が白いせいか40そこそこに見える。姿勢がよく機敏な動き。気の強そうな大きな目、俺と同じ黒い瞳。少しは年老いただろうと予想していたが、母親は驚くほど変わっていなかった。

座った途端、母親は口を開いた。

「イツキ。帰って来たからには為すべきことが分かっているのよね?」

最初の台詞がこれか……。でも、グッと堪えて頭を下げた。

「お久しぶりです、お母さん。久しく顔を見せず、申し訳ありませんでした。今日は婚約者を紹介したく挨拶に参りました。……中野さくらさんです」

「中野さくらと申します。よろしくお願いいたします」

さくらは畳に手をついて、深々と頭を下げた。

さくらの様子を横目で見届け顔を上げると、母親はさくらには見向きもせず、俺をじっと見ていた。吸い込まれるような黒い瞳。何を考えているんだ?

「相変わらず自分の立場が分かっていないようね。結婚は重要な切り札です。私が認める相手としか結婚は認めません。もういくつかお話はいただいているの」

やはりそう来たか。

「お母さんに認めていただかなくても、俺たちは結婚します」

「イツキ、あなたは井川を継ぐのだから、少しでも有利になる相手を選ばないといけません。この家の名と従業員を背負って立つのよ?少しは自覚しなさい」

一度息を吐いて、小さく息を吸って決意を決めた。

「俺は井川は継ぎません」

狭い和室に俺の少し大きな声が響いた。
< 312 / 325 >

この作品をシェア

pagetop