女子力高めなはずなのに
「怖かった?もう平気?」

「うん、大丈夫。だいたい聞いてた通りだったし。でも、あんなドラマみたいな台詞、ホントに言うからちょっと驚いたけど」

「まあね」

「いつもあんな感じなの?」

「いつもも何も、あんなに会話をしたこと自体が初めてだからなあ」

「そっか……」

「お母さんをじっと見て話すカズくん、かっこよかったよ」

にっこり笑うさくらに何と返していいのか分からず、苦笑して座卓に置かれた手を握った。握られた手を見つめて、さくらはうつむいた。

「カズくん、本当に良かったのかな。もうこの家に来れなくなっちゃったんじゃないの?」

「別に構わないよ」

「でも、私がいなければ……」

「そんなことはない」

私がいなければ良かった、なんて絶対に言わせたくなくて、言葉を勢いよく被せた。

「俺がこの家に来れないのは、俺のせいであってさくらのせいじゃない。それに、元々この家に戻るつもりはなかったんだ。継がないってきちんと伝えられたんだから、これで良かったんだよ」

そう言って微笑んだところで家政婦が「失礼します」とふすまを開けた。お迎えね、さっさと出て行けってことか。

立ち上がって、さっきまで母親が座っていた場所に目をやった。

これで良かったんだ。
今までこんな風に話をしたことはなかった。会話をしたこともなかったんだから。

たとえ価値のない人間とか役立たずとか言われようと、俺は俺として生きていくことを正面から伝えたんだ。
出て行けということは、俺が別の人生を歩んでいくことを認めてもらえたとも考えられる。

さくらと結婚すること、井川家を継がないこと、この二点はきっちり伝えた。目的は達成したじゃないか。
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