女子力高めなはずなのに
俺が宗像さんの子どもなのであれば、父親が俺を無視し続けた理由は理解できる。
妻の浮気相手と同じ名前と顔を持った息子なんて見たくもないだろう。

父親は分かる。だが、なぜ母親は俺の存在を無視し続けたんだ!愛する男の名前を付けておきながら、どうして俺はいらない子として扱われなければいけなかったんだ?
産んでから後悔したのか?不貞の子は後ろめたくて邪魔だから存在を無視し続けたのか?

それならなぜ!

俺の気持ちなど関係なく、本家の血筋という理由だけで、もっと強引に俺を跡継ぎにしてもおかしくなかったのに。
なぜ今になって俺に有利な書類を用意して自由に解き放ったりしたんだ。

宗像さんは俺たちのことをどう思っていたんだろう。不貞の噂を立てられても井川家から離れず、結婚もせず。ずっと一人静かに俺たちのことを見守っていたとでもいうのか?

母親だって宗像さんを簡単に解雇できたはずなのに、ずっと井川家のそばに置いてきた。

……表には全く出さずに、三十年以上も二人は互いを想い合っていたのか?

なんだよ、それ!

そうだとしたら、それは……悲恋だ。

母親は家のしがらみに囚われて、堂々と想い合うこともできず、愛する男と添い遂げることのできない己の運命を呪っただろう。

……まさか……。

俺が愛する男の息子だから、母親は俺を自由な世界へ手放したんだろうか。
自分たちと同じ運命を辿らせないために。愛する女と共に生きる普通の幸せを掴ませるために。

二人は俺の幸せを願って、この覚書を用意したんだろうか……。

それなら、母親にとって兄貴はいったい何だったんだ。あんなに溺愛して期待して、しがらみの真っ只中に引き込んで。

兄貴は気がついていたのかもしれない。心中するように自分を檻の中に引き込む母親の歪んだ愛に。自分を身代りに俺が自由を手に入れるということに。
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