裏腹王子は目覚めのキスを
なんだかんだで、トーゴくんは料理をすべて平らげてくれた。
デザートのチーズケーキは半分残っているけれど、明日の夜にまた食べるから、と言ってくれた。
トーゴくんのチーズケーキ好きは、昔から変わってないみたいだ。
キャンドルの炎をすべて消して電気をつけたトーゴくんが言う。
「俺、風呂入るわ」
「あ、うん」
空になったお皿を片付けていると、リビングを出ようとした彼が振り向いた。
「羽華」
「ん?」
顔を上げた瞬間、王子様の端正な顔が、ふっと崩れる。
「ありがとな」
「え……う、ん」
今まで見たことがないような穏やかで優しい笑み。
あっけにとられて固まっているうちに、トーゴくんは洗面所に向かってしまった。
心臓がばくばくと鳴り響く。
「びっくり……」
普段の皮肉っぽい笑みとも、女の子たちに見境なく見せる王子様の微笑とも違う、言うなれば次元の異なる微笑みだった。
まるで、感情が滲み出すような、温かな笑み……。
三十歳になって、王子と呼んでもいい年齢なのかどうかわからないけど、彼はいきなり年相応の優しい微笑みを見せた。
確かに男は三十から、ますます色気を放出させるのかもしれない。