裏腹王子は目覚めのキスを



携帯が鳴ったのは、わたしが後片付けをほぼ終えて、トーゴくんがちょうどお風呂から上がってきたときだ。

ボクサーパンツ姿で肩にバスタオルをひっかけた王子様の脇を、うつむいて通り抜け、わたしはローテーブルに放り出してあった携帯を拾い上げた。

『もしもし、羽華子?』
 
聞こえたのは、掠れた特徴的な声。

「うん、健太郎くん、どうしたの」
 
冷蔵庫の扉を開けたトーゴくんと目が合って、わたしはなんとなく背を向ける。

闇夜を映す窓ガラスには、外のビル明かりと室内の照明が混在してる。

『紹介したい仕事が見つかったんだけど、今、時間いい?』

「あ、ちょっと待って」
 
わたしはソファの横に置いてあったバッグから手帳を取り出した。
健太郎くんが口にする企業の名前や場所、時給や仕事の内容をメモに取っていく。
 
それから健太郎くんは、わたしにこの会社で働く意志があるかどうかを尋ねた。

「うん……」
 
条件はほとんど希望通りだった。時給は想定よりも低いけれど、業務内容が単純作業だから仕方ない。
 
正直に言えば、まだ働く自信があるとは言えない。
それでも、前に進もうという気持ちはある。

「頑張って……みたいかも」

『そう。それじゃ、担当者との打ち合わせの日取りが決まり次第、連絡する』

「はい、よろしくお願いします」
 
その場で向き合っているわけでもないのに、ぺこりと頭を下げてしまう。
そのまま通話を切ろうとしたとき、かろうじて声が届いた。

『あ、もうひとつ、話したいことがあるんだけど』


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