裏腹王子は目覚めのキスを
 
声から感じ取れる空気が微妙に変わって、わたしは携帯を左手に持ち替えた。

「うん、なに?」
 
健太郎くんは、前置きもなくいきなり言った。

『僕たち、元の関係に戻ろうよ』

「え……?」

『次に会ったとき、ゆっくり話そう』
 
わたしの返事を聞くこともなく、どこまでもマイペースに、通話は途切れる。
 

わたしは呆然としたまま、ツー、ツー、と鳴り続ける音を、しばらく黙って聞いていた。
 
あまりにも思いがけなくて、傍らに人がいることに気づくのが遅れたくらいだ。

「わ、わあ! トーゴくん、何してるの」
 
ソファ側面を背にしてぺたんと床に座り込んでいたわたしは、ソファに沈んでいる彼に気づいて声を裏返らせた。

「なにって……普通にテレビでも観ようかと」
 
リモコンを手に持って、彼はスイッチを入れる。
バラエティ番組の騒々しい音の洪水が、急激に部屋をのみこむ。
チャンネルを変えてニュース番組に合わせると、トーゴくんは前を向いたまま尋ねてきた。

「なに? 派遣の連絡?」

「あ、うん。今度、会社紹介してもらうことになった」

「へえ、よかったじゃん。つか、電話の相手は派遣会社の営業じゃねえの? ずいぶん親しげだったけど」
 
鋭い切り口の質問に、わたしは口ごもった。
観察眼が鋭いというか、よく見てるというか、トーゴくんは抜け目がない。

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