裏腹王子は目覚めのキスを
 

言う……べきかな? 健太郎くんのこと。
 

わたしが黙ると、テレビから流れるアナウンサーの声だけが滔々と響く。
それはリビング内に蜘蛛の巣のように張り巡らされた緊張の糸に次々と引っかかって、息苦しく充満していく。
 
沈黙に耐え切れなくて、わたしは結局口を開いた。

「実は……元カレなの。派遣営業の人」


「…………は?」
 

よほど意外だったのか、トーゴくんはテレビに向けていた目をわたしに移した。

「元カレって……。あ、まさか、前言ってた派遣会社にアテがあるって、それのことか?」

「……うん」
 
手帳をのろのろとバッグにしまいながら答えると、彼は眉をおもいきり歪めた。
顔中に広がるのは嫌悪の色だ。

「お前、それでいいわけ? 新しい仕事するのに、元カレの世話になるって……」

「だ、ダメだったかな? べつに仲違いして別れたわけじゃなかったし、普通に友達みたいな感覚で……」

「いやいや、別れた男が友達のつもりでいるわけねえだろ」
 
あざ笑うように言われ、ふと思い至る。

「そういえば今、元サヤもどらないかって、言われた」

「はあ!?」
 
リビングを震わせるような声に、わたしのほうが驚いてしまう。

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