裏腹王子は目覚めのキスを
 
 * * *

一週間が経った。
 
霧のような細かな雨が、オフィス街を灰色に濡らしている。
 
わたしは折りたたみ傘を広げ、顔合わせを終えたばかりの会社のエントランスを出た。となりには、健太郎くんの姿がある。
 
晴れでも雨でも関係なく、平日のオフィス通りにはビジネスマンの姿が多い。ぶつかりそうになる傘を斜めにして歩道をすり抜け、わたしたちは近くのカフェに入った。
 
コーヒーを頼んで窓際の席に着く。

「わたし、今行った会社で採用されるかな」
 
本来、派遣法では事前面接行為が禁止されているらしいけれど、実情は打ち合わせという名目でほとんど面接が行われているらしい。
わたしの人間性やこれまでの経験を会社側が吟味したうえで合否が出るとなると、やっぱり緊張する。

「さあ、どうかな。担当者に聞いてみないとわからないよ」
 
健太郎くんはやっぱり余計なことを言わない。
わたしが不安に陥っていても、希望をもたせることを言わない代わりに、不確かなことも言わない。

「面接の手ごたえはあったと思うんだけどなぁ」
 
頭の中を仕事モードに切り替えたのは久しぶりだったけれど、スーツをまとったせいか、意外なほど落ち着いて臨むことができた。

企業側の担当者も身を乗り出して話を聞いてくれたように思うのだけれど、実際どうなのかは結果が出るまでわからない。
 
コーヒーをすすりながら和やかだった面接場面を思い返していると、健太郎くんは「どのみち、あとで連絡するよ」と会話を終わらせてしまった。それから、まっすぐわたしを見る。

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