裏腹王子は目覚めのキスを
「それで、話なんだけど」
「あ……うん」
漂い始めた重たい空気に、わたしはコーヒーカップを置いた。BGMのジャズに、ときおり店員の声やコーヒーマシンの機械音が割って入る。
「羽華子は、この一年どうしてた? 少し痩せたように見えるけど」
健太郎くんは物静かだ。
動作も落ち着いていて、彼の前に付き合った人のようにいきなり怒鳴ってくることもなかったし、気持ちが急降下して不意に黙りこむということもなく、いつも安定している。
彼のへこみのある鼻に愛しさを感じながら、わたしは顎を引いた。
「正直に言うと、ずっと実家に引きこもってた。家事を手伝いながら」
「そう。時間、無駄にしたんだな」
憐れむような視線に、ふと気持ちが沈む。
「……うん、そうかもしれない」
心を回復させるためとはいえ、世間から身を隠すようにこもっていた生活は、社会的なつながりをすべて断った生産性のない時間だったと思う。
ようやく前を向けるようになったとはいえ、一年は長すぎたかもしれない。
テーブルに視線を落とすと、
「やっぱり、羽華子には僕がいないとダメなんだと思う」
「え……」
健太郎くんは様々な傘が行きかう濡れた通りへと目を向けた。