裏腹王子は目覚めのキスを
傘を差し、ふてくされたような顔で立っていた彼が、カフェの入口を回ってくる。
畳んだ傘の先から雨のしずくを垂らしながら近づいてくると、どかっと正面の席に座った。
「今さっきのヤツが元カレ?」
「な、なんでトーゴくんがここにいるの……!?」
今朝家を出たときと同じスーツ姿の彼は、自分の存在が夢や幻ではないことを証明するかのように、わたしのカップに指を伸ばしコーヒーの残りに口をつけた。
「別に、仕事で近くにきたから」
確かに、トーゴくんに強く言われて面接の日時や場所――つまりは健太郎くんと今日この周辺で会うことを伝えていたけれど、だからといってこんな偶然があるだろうか。
わたしの不審な目に気づき、彼はわざとらしく首をすくめる。
「ま、取引先を回る順番とか、多少の調整はしたけどな」
「調整って、なんでそんな」
「俺、今昼休憩なんだよ」
「昼って、もう三時だよ?」
腕時計を見ながらわたしが言うと、トーゴくんは立ち上がった。
「忙しいエース様はなかなか昼時に時間取れねえんだよ。つーわけで羽華、飯に付き合え」
「え」
「ほら、行くぞ」
有無を言わせぬ目線でわたしを一瞥し、トーゴくんはさっさと店を出て行ってしまう。
嵐のような出来事に頭のなかは混乱している。それでもわたしは席を立ち、慌てて彼の背中を追いかけた。