裏腹王子は目覚めのキスを
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連れて行かれたのは、大通りから横道に入って何本か細い通りを進んだ先にある、こぢんまりとした喫茶店だった。
入口からまっすぐ奥に伸びた画廊のような空間に、オレンジ色の照明が優しく浮かんでいる。
カウンター奥の棚には様々な模様のカップとソーサーが美術品のように並べられていて、その美しさにわたしは目を奪われた。
落ち着いた雰囲気の店内には、読書をしている中年の男性客がひとりだけ。食事をするというよりは、コーヒーを飲む場所、という感じだ。
「お昼、食べるんじゃないの……?」
サンドイッチみたいな軽食程度しか置いていなさそうだなと思いながら店内を見回していると、トーゴくんは迷うことなく一番奥のテーブル席についた。
「ここの裏メニューが最高に美味いんだよ」
「裏メニュー?」
「そう。知る人ぞ知る、な」
水を運んできた白髪の店主に慣れた様子で注文すると、「さてと」と言ってトーゴくんは居住まいを正すようにわたしに向き直った。
「羽華、お前、あんな男と付き合ってたのか」
出し抜けに言われて、一瞬言葉を失う。
それから、ああそうだ、と思い直した。
さっきのカフェで、トーゴくんは外からわたしと健太郎くんが話ているところを見ていたのだ。
ずんぐりした背中を思い出して、わたしは水のグラスに指を伸ばした。
「あんな男って失礼な。ひとの彼氏に向かって」
「彼氏……?」
トーゴくんの眉がぴくりと動く。
わたしは喉をしめらすように水を一口飲み、勢いをつけて言った。
「元サヤ。戻ることになったの」
「お前……」