裏腹王子は目覚めのキスを

「お待たせいたしました」
 
白い口ひげをたくわえた初老の店主が、テーブルに湯気を立てる丸皿を置く。

「ボルシチです」

「おーきたきた」
 
スプーンを手に取り、トーゴくんは皿にスプーンを沈めた。

「ボルシチって……ロシア料理の?」
 
皿の中は一見ビーフシチューのようにも見えるけれど、スープの色は赤く、濁りも少ない。
牛肉にたまねぎ、人参、ブロッコリと具だくさんで真ん中にはチーズが溶けている。

「ロシアっつーか起源はウクライナらしいけど。あーうめー」
 
はじめて目にする料理に釘付けになっていると、トーゴくんが「食うか?」とスプーンを差し出してくれた。

「う、うん……」
 
間接キスですけど。なんて、中学生みたいに彼が使ったスプーンに気を取られながら、わたしは熱々のそれをすくった。

「うん、美味しい」
 
野菜の旨みがたっぷりで味はミネストローネに似ているけれど、ほんのり甘くコクがある。
野菜も牛肉も大きめにカットされていて、食べ応えがあった。

「だろ? たまーに食いたくなるんだよな」
 
わたしからスプーンを受け取ると、彼はライ麦パンをスープに浸して口に運ぶ。
目が合うと、「その男、自己中なだけなんじゃねえの?」とわずかに眉をひそめた。

「え?」 

「男の話だよ、健太郎ってやつの」

「ああ……」
 
唐突に話を戻されて、わたしはほどけていた気持ちを締め直す。

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