裏腹王子は目覚めのキスを

高校生の頃のトーゴくんは常に女の人に囲まれていて本当にすごかった。
多感な中学生時代につくられたイメージは、そう簡単に払拭できない。
 
もごもごと言葉を探しているわたしを見て、トーゴくんはスプーンを置き、身体がしぼんでしまいそうなほど大きなため息をついた。 

「つーか、その男が浮気しないなんて、なんで言い切れるんだよ」

「それは……健太郎くんは、トーゴくんみたいに野獣じゃないし」

「はあ?」
 
王子様は不機嫌だった。
自分を攻撃されたことが気に食わないのか、視線もさっきよりずっと鋭い。
 
曖昧に答えても容赦なく切り込まれそうで、わたしは空になったボルシチのお皿に目を落とした。

「だから、健太郎くんは……そういう方面に、そんなに興味がないっていうか」

「セックスが弱いっつーこと?」

「せ……」
 
真顔で聞き返され、思わず店内を見回した。
 
カウンターの中で洗い物をしている店主も、文庫本をめくっている男性客も、わたしたちを気にしている様子はない。
 
ほっと息をつき、わたしは声をひそめる。
身体の内側が妙に熱かった。

「ま、まあ、そう。だから、ほかの女の子には興味ないの」
 
言い切って、この話題を終わらせるために無理に笑顔をつくった。

「健太郎くんの人間性も問題ないし、トーゴくんが心配するようなことなんて何もないよ」
 
せっかく話題を逸らそうとしたのに、王子様はぽつりとこぼす。

「お前、セックスレスだったの?」

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